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馬上の姫君   第四章   花嫁の短筒   4
        
           風一の『馬上の姫君』
  
          第四章  花嫁の短筒 4

  桜姫の許嫁顕如の父証如は天文五年の元旦から日記を付けはじめ

 天文二十三年八月二日まで続いた。この膨大な日記には本願寺に関

 係した人物の往来や、諸大名との贈答授受の品および金額が細かく

 記載されている。六角との遣り取りも克明に記載されていた。

  丁寧に日記をつける証如は極めて厳格で几帳面な人であった。

 そのような人柄のせいもあって本願寺に親しい長慶政権全盛の世に

 なっても、一旦交わした婚約を破談にすることを嫌った。また証如

 の母で賢母として評判の高い慶寿院も証如亡き後よく遺言を守った

 ため、晴元(一清)や義賢の期待を裏切ることなく顕如と桜姫の婚

 儀が実現する運びになったのである。

  証如と桜姫の婚儀は四月十七日夕方から本願寺で執り行われるこ

 とになった。

  嫁ぐ日、桜子が挨拶にきたが、その時の落ち着いた口上と気品に

 満ちた挙止閑雅な振る舞いは義賢の姉には見いだすことのできぬも

 のであった。まして阿波育ちの晴元の行住坐臥からは片鱗すらも見

 出すことは出来ない。

  義賢は、さすが、三条家の姫君だと思った。

 「桜子、武門の娘として本願寺に嫁ぐことを忘れるでないぞ。御身

 と法主の守りとするがよい」

  義賢は善住坊が今井の久右衛門より買い付けた姫用護身短筒三挺

 のうちの一つを桜子に持たせた。

 「久右衛門なる鉄砲鍛治が大和今井荘にござる。熱心な一向門徒じ

 ゃ」
 
 「法主の護身用短筒を献納した鉄砲鍛治であらしゃった」

  そういって晴元はニタリと笑った。

  天文年間、遊佐長教の四十九日の法要に出向いた筒井順昭をその

 帰り待ち受けて、狙撃して死にいたらしめた実行犯を知っていて、

 威力を発揮した大玉の短筒を提供したのが何者かをも知っている笑

 いであった。

  後年、音羽に逼塞した義賢は払子川の上流の比曽河内に隠し砦を

 作らせ、久右衛門亀光を招聘して信長に対抗するために銃、弾薬を

 造らせている。

  義賢は桜子(後の如春尼)を定頼の教えに従い、宇治までは馬で

 遣ることにした。武家から坊主将軍顕如に嫁ぐのだ。

  義賢と一清は嫁ぎ行く娘をともに大手門まで見送る。

  馬上の姫君は楚々として凛然と馬上にあった。

  義賢も晴元も、そして居並ぶ家臣もわれを忘れてその美しさにみ

 ほれた。

  きぬがさ山から一陣の風がまいおりて桜の花を吹き散らした。

  桜の花びらが優しく桜子を包む。

  花嫁は坊官下間兵庫頼次、同丹後頼宗兄弟の案内で本願寺門徒衆

 に守られて観音寺城を出発した。

  宇治からは二十石船で淀川を下って本願寺に向かうと言う。

  桜子を見送りながら義賢は寂しくなった。一陣の風が観音寺山の

 全ての幸を桜子とともに運び去ったように感じたからである。


  数か月後、初姫が能登守護畠山義綱に嫁いだ。女佐の臣楢崎岩見

 守賢光に伴われた初姫は、かつて、大伴家持が赴任した伏木の国府

 跡を経由して、英遠(あお)の浦に出た。

  能登畠山は継室の実家であったから、義賢は安心して長女を送り

 出した。能登畠山氏は佐々木六角氏と重縁を結ぶことで、義賢を介

 して本願寺と講和している。

  しかし七尾の城では、守護代遊佐をはじめ、温井、長などの台頭

 が著しく、家臣団の分裂の兆しが芽生えていて、やがて、凋落への

 日々が始まることを初姫は知る由もない。

  初姫は輿から出て、楢崎に馬を準備させて海岸を駆けた。馬の背

 から見た蒼い奈呉の海は真夏の陽を受けてキラキラと輝いていた。

        風一の『馬上の姫君』   上巻


  
    風一ブログ 次回は『佐々木承禎と信長』

  になります。

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